易占い
中国の古い書物である四書・五経の一つ「易経」は孔子が哲学として完成したとされています(真偽については異論が多い)。真偽は別にして内容は、人間の一生に起こる出来事を自然や動物、歴史上の人物などを例にして語った人生哲学書というべき書に違いありません。
その中に「山水蒙」という卦があります。これは無知蒙昧な幼児をたとえにして、この知能をいかに啓発して行くかを説いたものです。
これには「初筮告。再三涜」とあって、「誠心誠意占えば、必ず一度で真実が告げられる。その結果が気に入らないと言って、再三占うのは易を冒涜するもので真実は告げられない」というような意味です。このような文章が六十四(卦)、各々それに付随した六爻(こう・条)の計三八四通りの文章からなっていて、この中から一卦と一爻を選び出して吉凶を判断します。
春秋左氏伝(左伝・中国春秋時代の歴史記録ともいえる占例集)には「****をしようと思って卦をたてたところ〇×◇という卦が出ました。これはどういうことでしょうか?」という記述が随所にあります。つまり、古い中国では自分がこれから行おうとする事柄を念じ、自ら一つの卦を選び出し、それを識者に解説してもらうと共に吉凶の判断を委ねるのが普通であったらしいのです。
この方法だと選び出す行為は占いですが、その判断は客観的にされるので単なる占いとは言い切れませんが、現在では卦を選び出すことから、その吉凶の判断まで専門家(易者)が行うので「占い」に成り切っています。易は元来、吉凶判断が主だったので占例が多いほど五〇パーセントの確立で当たります。このことから「当たるも八卦当たらぬのも八卦」という言葉が生まれましたが、名人と評される人ほどこの数字が限りなく百に近づくのでしょう。
易についておもしろい記事(※)があったので、以下原文のまま紹介しておきましょう。 「小説サンデー毎日」の《吉行淳之介躁鬱対談》で、昔ログマ(街頭占い師)をやったことがあるという田中小実昌氏が楽屋話をしているが、六四卦のうち「天沢履」(下卦
兌、上卦 乾)という、たった一つを覚えておけば何でも占えるという話はおもしろい。
すなわち、この卦の卦辞は「虎の尾を履む(踏む)も人を咥(か)まず、亨(とお)る」というのだが、「兌を少女とするから、少女が虎のような猛獣も恐れる事なく甘えて尾に戯れている象ととるが、虎はこれを咬もうとはしない。
柔よく剛を制するの意で、邪気がなければ虎のような強者もあえて害を加えることはしないという卦だ。まあ何事も誠意をみせて慎重を期せば必ずよい結果が得られよう・・・・・・・といった説き方をすれば、どんな事件の解答にもなるというのだが、実際にこの手を用いたと、実験者は語っているのだからおもしろい。
(※新人物往来社発行・歴史読本増刊号「占い予言の知恵」から引用)
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